本記事では, ブロックチェーン 技術 を使ったビジネスの実例を解説していきます。
今回取り上げるのは,ITモンスター・IBMのサービスです。
その名も,『IBM Food Trust™』です。
あのウォールマートも使用する技術が,このIBM Food Trust™なのです。
IBMのブロックチェーンサービスとして,物流に特化したTradelensもありますので,ぜひチェックしてみてくださいね!
IBM Food Trust™について
ざっくり全体概念
IBM Food Trust™は,一言でいうと,食物のサプライチェーン管理システムです。
これまでの一般的なシステムと何が違うかというと, ブロックチェーン がベースになっている点でしょうか。
食物のデータを生産段階からブロックチェーンに管理し,透明性・信頼性の高いサプライチェーンにすることを謳っています。
ここで,本システムの利用段階を大きく4つのブロックに分けて考えてみたいと思います。
下の図の通り,「仲間集め」「データ入力」「データ管理」及び「データ利用」の4ブロックに分かれると考えられます。

利用段階は4つ
では,それぞれの段階について個別に見ていきます。
仲間集め
IBM Food Trust™は,一人で使うものではありません。
例えば,「野菜の入ったお惣菜がサプライチェーンに乗って流通する様子」を想像してみてください。
どのような流れになるかを想像してみると。。。
- 農家の人が特定の条件で野菜を育てて,
- 収穫して,
- トラックで運んで,
- 倉庫に収納して,
- コンテナに積み替えて,
- 船に積んで,
- 海を渡って,
- 船から降ろして,
- トラックに積み替えて,
- 長い距離を陸送して,
- 倉庫に入れて,
- 倉庫から必要な材料を取り出して,
- 加工して,
- 容器に入れて,
- トラックに乗せて,
- 小売店まで運んで,
- 小売店の棚に陳列して,
- お客さんがレジで買って,
- 食べる!
どうでしょうか?
工程の数がすごく多いですよね!?
一つの「野菜の入ったお惣菜」をとってみても,これだけの工程を経て皆さんの口に運ばれています。
そして,これらをすべて自分の会社だけで担っているわけではありません。
農家,運送会社,食品製造会社,小売店などなど,数多くの人たちが関係してくるのです。
中には,これらすべてを自社で行うようなモンスター企業もあるかもしれませんが,複数の会社が関係することが普通です。
ブロックチェーンという性格上,取り扱うものは『データ』です。
数多くの人達がデータをIBM Food Trust™に入れたり管理する必要があるのです。
なので,IBM Food Trust™を使う最初の段階は,「IBM Food Trust™を使う」ことを前提とした「仲間集め」だと思うのです。
IBMは,データを扱う権限に応じて,この「仲間」を5つの集団に便宜上分類しています。権限の大きな順に並べていきます。
- Account Owner
アカウントの設定自体を弄ることができる。オーナーですね。
- Account Administrator
ユーザーを加えたり外したりでき,グループの設定を変更できる。
- Certification Manager
証明書やその他の文書をアップロードしたり削除したり編集できる。
- Food Safety Team Member
データを閲覧でき,製品の追跡ができ,証明書等を見られる。
- Onboarding Team Member
製品に関するデータをアップロードできる。
この5段階の権限に応じて,グループのメンバー構成を決めていくのでしょうね。
想像するに,人数としては下の図ようなピラミッド構造になるのではないでしょうか。
Onboarding Team Memberは現場の作業員のイメージで,Account Ownerはプロジェクトの統括責任者って感じかな?

メンバーの5つの階層
では,仲間が集まったところで,次の「データ入力」にいきます!
データ入力
ブロックチェーンによるサプライチェーン管理において,ここが最も重要なポイントになると考えています。
なぜなら,ブロックチェーンはデータを扱うものですが,データの信頼性が向上することがブロックチェーンのメリットの一つです。
そのためには,
- 現実と整合したデータが入力されている
- データを改ざんできない
この2つが揃って初めて,「ブロックチェーンで管理しているデータは現実と整合しているので信頼できる」と言えます。
ここで、2.については,ブロックチェーンの仕組みそのもので担保できます。
しかし,1.については,現実の状態を正確にデータにしてインプットする必要があるので,人間による操作が介在します。そのため、2.のように担保することが難しいですよね。
したがって,データの入力段階が最も重要(かつ課題の多い部分)になると僕は考えているんです。
では、何がそれほど難しいのでしょうか?
僕は『現実』を『データ』に『変換』する部分だと思っています。
考えてみてください。
「農薬不使用であるという現実」を、どのようにデータに変換しますか?
『倉庫でコンテナに積み込む過程では異物の混入はなかったという現実』を、どのようにデータに変換しますか?
仮に農薬が使われていたとしても,人間が『農薬不使用』と入力してしまったら,それがオリジナルのデータになってしまいますよね。
その点,IBM Food Trust™️ではどのようにデータを入力していくのでしょうか。
次の図をご覧ください。
IBM Food Trust Connector APIというインターフェースプログラムによって,クライアントが用意したデータをIBM Food Trust™に取り込むことになっています。

データ入力は専用のAPIで
つまり,
「データの入力はお客さんがやってね!データさえあれば,それをAPIで簡単に取り込めるから!」
ってことなんです。
うがった見方をすれば,
『データが現実と整合しているかどうかは責任取らんけどね』
ってことではないでしょうか?!
確かに,システムを提供するIBMからすれば,「データの入力までは面倒見切れん!」ということなのでしょうが,(僕が考えるところの)最も重要な(かつ課題の多い)部分をクライアントに投げているように感じてしまいます。
長くなりましたが,データの入力は,結局は人間が地道に行うことになりそうです。
Onboarding Team Memberが,現場でピコピコと入力するのでしょうね。
データ管理
続いてのブロックは,データの管理です。
ブロックチェーンによるトレース
データの入力が済んでしまえば,IBM Food Trust™は,視覚的に食材の追跡データを表示してくれるようです。
もちろん,ブロックチェーンを使って。
下の図のように,冷凍オムライス(そんなものがあるかどうかは置いといて)を食酢などの食材レベルで追跡が可能になるようです。
IBM Food Trust™の公式ページではペパロニピザで説明されていますが,日本人にわかりやすいもので考えました。

ブロックチェーンによる食材のトレース
ブロックチェーンを使うため,改ざん耐性の高さは,大きなメリットになりますが,IBM Food Trust™が公式ページで謳うメリット(というか可能になること)としては以下のものが挙げられています。
- 例えば食品に関する異物混入トラブルが発生した場合に,影響範囲を特定できる
- さらなる混入を防止できる
- リコールの範囲と影響を狭められる
なお,IBM Food Trust™のブロックチェーンは,HyperLedgerFabricというオープンソースのブロックチェーン基盤に作られています。
そして,以下のような強みを謳っています。
・シームレスなソフトウェアとブロックチェーン・ネットワークの更新による常時稼働の高可用性
・特権アクセスのない強化されたセキュリティー・スタックで、マルウェアをブロック
・24時間365日のIBM Blockchain のサポート
・ネットワークを完全に可視化するための組み込みのブロックチェーン・モニタリング
・The Linux FoundationのHyperledger Fabricを採用
引用:https://www.ibm.com/jp-ja/blockchain/solutions/food-trust
証明書の管理
僕は食品分野には詳しくないので,詳細な言及は避けますが,素人目線で見ただけでも,食品に関しては,
- 放射性物質
- 食品添加物
- 重金属
- 細菌,ウィルス
- 栄養成分
- その他有害物質
などの検査を行うことが容易に想定できますよね。
そして,それぞれに特化した調査機関がいたりするわけです。
となると,従来ではどういう状態を招くかというと,
最終的な製造責任を負う会社は,すべての各種証明書を取り纏めることになるので,管理がめっちゃ大変!
となるはずです。
IBM Food Trust™はその問題に対して,『ホリスティック(包括的)アプローチ』対応するとしています。
どういうことかと言うと,各種証明書を一括して管理する機能を備えているようなのです。
下の図を見てください。IBM Food Trust™の概要説明書から読み解いたので,若干違うかも知れませんが,前述の「Certification Manager」という人が,その権限に基づいて,集権的に証明書その他のビジネス文書をシステムにアップロードすることができます。
IBM Food Trust™は,「Certifications Module」というモジュールによって,アップロードされた証明書を整理して見やすく保存・管理してくれるようです。
重複していたり,期限切れになる証明書については,フラグを立ててわかりやすく注意喚起をしてくれるみたいですね。

Certifications
データ利用
データは,利用されてこそ価値が出ます。
察するに,IBM Food Trust™によるデータ利用は,
- 改ざんされておらず,産地から継ぎ目なく繋がったデータが
- ユーザーフレンドリーなインターフェースを通じて
- 適時に閲覧,ダウンロード,出力できる
ことだったり,
- 食品に不具合があった場合に,
- 産地まで一貫して残っている記録を利用して,
- 問題の所在を素早く突き止められる
ことではないでしょうか。
マネタイズ
IBM Food Trust™では,以下の4つのプランが用意されています。
- 小規模企業向け
- 中規模企業向け
- 大規模企業向け
- 仮想ガイドによるオンボーディング
中身まで公開されていませんが,小中大規模企業向けってのが,実際にIBM Food Trust™を利用するプランです。
『仮想ガイドによるオンボーディング』は,IBM Food Trust™を使えるようになるための教育プログラムです。自社の商品を使えるするための教育からも代金を頂戴する,たくましい商魂に脱帽です。。
詳細は公式ページへ!

おわりに
IBM Food Trust™の概要を説明してみました。
僕の印象では,『あくまでシステムの提供』です。
ブロックチェーンによるサービスを形にしただけでもすごいと思いますが,僕は以下の2点が気になっています。
- 正確なデータを入手するのはユーザーの所掌になっているので,肝心なところに手が届いていないのではないか(現実の事象をそのままデータ化する『センシング技術』を補強して,人間系を排除すべきでは?)
- 権限が5段階に分かれていたが,不正ログインの防止はあくまでユーザーの努力に依存しているようなので,ユーザーのモラルに左右されるのではないか(例えば生体認証まで備えて,パスワード管理を不要にしたいところ)
ブロックチェーンのサービスを形にして世に出したことに,賞賛の拍手を送ります。健全な競争を惹起して,いいサービスが続々と出てきてほしいですね。
現に、サプライチェーンに関して変革を起こそうとするチャレンジャーも出てきています。

ブロックチェーンって,言葉が独り歩きしているような気がするんですよね。
万能ツールというか,打ち出の小槌というか,『よっしゃ,ブロックチェーンだ!』って,とりあえず導入に意気込んでいる社長さんも少なくないのではないでしょうか。
一度冷静になって,『どうやってブロックチェーンを使って事業をしていくのか』をじっくり考えた方がいいと思っています。
IBMはTradelensというサービスも開発して市場に投入しているので,事業化の底力を感じますね。
最後に,ウォールマート×IBM Food Trust™の動画をどうぞ^^
お読みいただき,ありがとうございました(^^)

ブロックチェーンの実例に関しては,社会貢献を見える化するactcoin(アクトコイン)も身近で面白いと思う。

ああ。。あれね!あったね、そういうの!英語の耳を鍛える訓練だと思って、僕は気軽に聞いてるかな〜♩
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