ブロックチェーン という言葉が認知され始めています。
認知は確かに広がっているのですが、産業のどこに使われているのか、どこで使われて行くのか、いまいちハッキリとしていないのが一般的な認識です。
僕はブロックチェーンの可能性に魅せられた人間として、ブログを通じた情報発信をしていきます。
ブロックチェーン自体の技術的な話ではなく、産業における実用化の例を中心に、図解を交えて、ざっくりと全体像をまとめていきます。
これまでも、以下の記事を書いてきました。
お時間があれば、ぜひお読みください^^




今回は、エネルギー分野、特に、電力業界におけるブロックチェーンの応用例を自分なりに考えてみました。
企業だけでなく個人にも影響が及ぶ話なので、記事を読んで、ぜひご自分の考えを巡らせてみてほしいです。
ざっくりと表現すると、
環境貢献度の高い電力を売ったり買ったりする企業や個人が、優遇されていく
と言う結論になります。
Kobol、電力業界に詳しいんだっけ?

うん、仕事でもよく絡むしね!。。。専門家ではないけど、考えていくことが大事だと思うんだよ!
電力業界のこれまで
電力業界をざっと眺めると、これまでは3つの段階に分かれていました。

電力業界の経緯
では,順に説明していきます。
大手電力会社による大規模集中型の発送電の時代(〜2011)
2011年頃までは、東京電力などの大手電力会社が、多額の設備投資をた大規模な発電所で発電し、消費者に供給することが一般的でした。
ここには、「規模の経済」が明確に働きます。
規模の経済を身近な例で考えてみます。
500ml入りのお茶のペットボトルの値段が150円だとします。4倍の2000ml入りの場合には、値段は4倍の600円でしょうか?
実際は違いますよね。2000mlのペットボトルの場合、300円くらいです。
これは、2000mlのお茶を製造するコストは、500mlを製造するコストの4倍ではなく、「大して変わらない」という実態に基づいています。
大規模に作る方が安く済むんです。
発電所の場合にも、規模の経済が働きます。
大手電力会社が大規模な発電所を作るのは、『コストが安くなる』という規模の経済を狙っているからです。
東日本大震災によって、大きな転換点を迎えた時代(2011〜)

東日本大震災では、津波で原発がダウン
日本にとって大きな転換点となる出来事がありました。
3・11、東日本大震災です。
津波によって、東京電力の福島原子力発電所の冷却機能が喪失し、メルトダウンを起こしました。
広範囲にわたり放射能が飛散し、現在も復旧活動が続いています。
このような凄惨な事故があったため、原子力発電所は全国的に稼働を停止させられ、再稼働しているものは数基のみです。
東日本大震災を境に、日本の発電能力における原子力発電の割合は激減し、その代わりに天然ガスなどの火力発電の割合が急増しました。
↓資源エネルギー庁のページですが,中段辺りに電源構成の変化が載っています。2013年には原子力がほぼゼロになり,ほぼ火力で賄っていることがわかります。
中でも,天然ガスの割合は2013年時点で43.2%と最大です。
天然ガスはクリーンなイメージがありますが、それはメディア戦略、つまり『刷り込み』の賜物です。
都市ガスの広告などに『クリーン』を想起させる文字や表現がセットになっていること、皆さんはお気付きでしょうか?
広告のパワーで、『天然ガス=クリーン』というイメージを植えつけられているのです。
天然ガスは化石燃料であることに変わりはないですし、二酸化炭素の排出量も石炭に比べたら6割程度と相対的に少ないだけで、多量に排出します。
動植物の死骸が地中で長期間(数百万年、数千万年)かけて分解されて生成されたものを、近代人類が数十年、数百年で消費していこうという時点で、石炭や石油と同様、天然ガスもサステナブルではないのです。
ただし、失った原子力発電の肩代わりが可能な電源として、次善策に上がったのが天然ガスだったために、一時的に天然ガスを多量に使っているのです。
サステナブルではない状態を長く続けていくことは、地球にとって良策とは言えません。

天然ガスもCO2の排出量は少なくない
この頃から、再生可能エネルギーの導入を加速させようという気運が高まってきました。
東日本大震災の前後で、再生可能エネルギーの扱われ方は、以下の通り大幅に変わっています。
震災前は、『積極的な利用拡大を図る』とだけ言及されています。
再生可能エネルギーについては、現時点ではコストや供給安定性の面で課題はあるものの、環境負荷が小さく、多くが国内で調達可能なエネルギーである。エネルギー源の多様化や新たな市場・雇用機会の創出といった効果も期待できることから、積極的な利用拡大を図る。
震災後は具体的に言及されています。記載しませんでしたが、太陽光、風力、地熱などの個別の電源についても方針が明記されています。
再生可能エネルギーについては、2013年から3年程度、導入を最大限加速していき、その後も積極的に推進していく。そのため、系統強化、規制の合理化、低コスト化等の研究開発などを着実に進める。このため、再生可能エネルギー等関係閣僚会議を創設し、政府の司令塔機能を強化するとともに、関係省庁間の連携を促進する。こうした取組により、これまでのエネルギー基本計画を踏まえて示した水準を更に上回る水準の導入を目指し、エネルギーミックスの検討に当たっては、これを踏まえることとする。
これに加えて、それぞれに異なる各エネルギー源の特徴を踏まえつつ、世界最先端の浮体式洋上風力や大型蓄電池などによる新技術市場の創出など、新たなエネルギー関連の産業・雇用創出も視野に、経済性等とのバランスのとれた開発を進めていくことが必要である。
この時期に、再生可能エネルギーの普及を拡大するために始まったのが、FIT(固定価格買取制度)です。
FIT(固定価格買取制度)をご存知でしょうか?
FITは、2012年7月に始まった制度で、
「再生可能エネルギーはまだコストが高いので、発電された電力を高く電力会社が買うことにします。その分、国民全員で再エネ賦課金として薄く広く負担しましょうね。」
という制度です。

例えば、太陽光発電を例に考えてみると、以下の好循環を続けていくことで、太陽光発電の普及を目指します。
↓
太陽光発電事業に設備投資しよう!と事業者は考える
↓
太陽光パネルがどんどん売れるので、量産効果でコストが下がる
↓
コストが下がって太陽光発電事業をやりやすくなるので、事業者がさらに設備投資する
↓
さらにコストが下がる
再生可能エネルギーを普及させることは、地球にとって素晴らしいことです。
しかし、その契機となった出来事が未曽有の大惨事とは。。。哀しいですね。
電力小売りの完全自由化により様々な企業が参入する群雄割拠の時代(2016〜)

群雄割拠の電力合戦
2016年に、電力の小売りが完全に自由化されました。
この結果、電力業界とは全く異なる業界のプレーヤーたちが参入してきました。ソフトバンクやauなどの通信会社や、東京ガスやニチガスなどのガス会社などです。
広告で『ガス(や携帯)と電気をセットにするとお得です!』みたいな広告を見かけたことがあると思います。
多くのプレーヤーが参入して、顧客獲得競争を繰り広げています。
この結果、新規参入組、いわゆる『新電力』に乗り換えた件数は1,000万件に届きそうです。
経済産業省の資料ですが,スライド7枚目を参照ください。
小売が自由化されたことで、電力ユーザーは自分のニーズに合う電力会社を選ぶ時代になりました。
3つの段階を経てきた、電力業界のこれまで。
ここから、4つ目の段階の話をしていきます。
電力業界の今後
これまでの段階では、
- 再生可能エネルギーの増加
- 自由化による競争激化
の流れがありましたが、これらの傾向は今後も続くでしょう。
そこに、ブロックチェーンが入り込むことで、電力業界の今後の流れが形成されるのだと考えられます。
電力業界には、ブロックチェーンの活用によって、
- P2P(Peer to Peer)
- VPP(Virtual Power Plant)
- 価値の保存
この3つの流れが形成されるはずです。
『P2P』と『VPP』については、本記事で述べたい部分ではないので、みずほ銀行の資料に委ねます。
本記事では、『価値の保存』に焦点を当てて説明していきます。
ブロックチェーンによる、電力業界における価値の保存
ブロックチェーンで記録されたデータは改ざんが極めて困難です。
この特性を前提にして説明しますが、僕の個人的な未来の予測ですので、ご承知おきください。
まず,電力を売るまでの流れをざっくりと示します。

電力のサプライチェーン
発電の段階では、”どのような電力が発生したか”の情報を保存

電気は電気で区別がなかった。これまでは。
電気は電気です。
黄色い電気とか、悪い電気と言った区別はなく、すべて電子の移動です。
なので、●●電力株式会社が原子力発電所で発電しても、火力発電所で発電しても、風力発電所で発電しても、いずれも同じ『電気』として扱われていました。
これまでは。
今後の未来では、ブロックチェーンがこの状態を変えていきます。
発電に到るまでの以下のような情報が、ブロックチェーンを使って記録されていきます。
- 発電原料(天然ガス、バイオマス、石油、太陽光、風など)が採取された地域はどこか
- 発電原料が採取され運ばれる工程に、児童労働や強制労働などの存在はなかったか
- 発電原料が採取され運ばれる工程に、反社会的勢力の関与がなかったか
最近の例では、イオンと関西電力の実証実験があります。

この実証実験では、『太陽光に由来する電力である』という情報が、電力取引とセットで記録されていくのです。
ブロックチェーンに記録されていくわけですから、改ざんがむずかしい。
ということは、『信頼できる情報』として扱われていくことになります。
発電の段階で、電力の由来をブロックチェーンに記録していくことで、信頼性の高い情報が形成されるようになります。
それは、どのような電力が生み出されたか、ということです。
同様に、電力会社Aはどのような電力を生み出している会社なのか、という情報が形成されます。
売電に関しても見てみます。
売電の段階では、”どのような電力がどのように取引されたか”の情報を保存

売電にもブロックチェーンが影響を及ぼす
発電された電力は、同時に、同じ量だけ消費される必要があります。
したがって、発電段階の情報が売電段階に引き継がれるので、どのような電力がどのように取引されたのか、という情報が、ブロックチェーンに記録されていきます。
同様に、電力会社Aはどのような電力を販売している会社なのか、という情報と、
ユーザーBはどのような電力を購入しているのか、という情報も、ブロックチェーンに保存されていくことになります。
発電から売電までを考えると、
どのような原料を使って電力が生み出され、それをどのような人物が、いつ、どの電力会社から、いくらで、どれくらい買ったのか
と言う情報が、信頼性高く保存されていくことになるのです。
再エネ電力を売る会社や使う消費者が得する時代へ
情報は、利用されてこそ価値が出てきます。
あなたなら、
どのような原料を使って電力が生み出され、それをどのような人物が、いつ、どの電力会社から、いくらで、どれくらい買ったのか
という情報を、どのように使いますか?
僕なら、このように使います。
↓
リアルなストーリーにするために、仮の設定を置きます。
楽天の三木谷さんだったら?
と、仮定してみます。
図にすると、↓こんな感じ。

楽天によるデータ活用(案)
発電事業者
複数の発電事業者から電力を調達します。
楽天として,再生可能エネルギー由来の電力を調達できることが必要です。
したがって,再生可能エネルギー由来の電力を販売メニューに持っている会社との連携が必要です。
例えば,ENEOSでんきや,アーバンエナジーなどがあります。
取引プラットフォーマー
ブロックチェーンの使いどころはココです。
再エネ由来の電力が生み出されたところから,最終的に販売されるところまで,取引履歴をブロックチェーンに記録していく必要があるのです。
例えば、デジタルグリッドと言う会社がありますが、楽天の資金力があれば、買収してRakuten Energyに組み込んでしまうことも十分に考えられます。
楽天
楽天の役割は、2つあると思っています。
- ポイント経済でこの仕組みを成長させていくこと
- 環境フレンドリーなユーザー情報の提供
ポイント経済に関しては、現在も取り組んでいます。
楽天でんきでは、「使えば使うほど楽天スーパーポイントが溜まる」のです。
この設定を少し変えて、「再エネ由来の電力を使えば使うほど、楽天スーパーポイントや速く溜まる」にします。
例えば、↓こうです。
- 化石燃料由来の電力を使う場合には、楽天スーパーポイントが×1倍で溜まる
- 再エネ由来の電力を使う場合には、楽天スーパーポイントが×3倍で溜まる
再エネ100%の電力でなくとも、再エネ電力の割合に応じてポイント付与率を変えていけばOKです。
例えば、再エネ由来電力50%+化石燃料由来電力50%なら、楽天スーパーポイントが×2倍で溜まる、といった具合に。
2つ目ですが,楽天は,あるユーザーが再エネ由来の電力をどの程度使っているかを把握できます。つまり,あるユーザーがどの程度環境フレンドリーな行為をしているかが把握できるのです。
次の項目で述べますが,環境フレンドリーなユーザーの情報は,今後は価値を増していくはずです。楽天は,価値のある情報のデータベースを持つことになり,データを外部に提供することが可能になるのです。
データ利用のパートナー
楽天は,環境フレンドリーなユーザ情報を外部に提供し利用してもらいます。
データの利用者としては,様々な団体が考えられます。
例えば,市町村や都道府県が利用するとなれば,環境フレンドリーな住民であるほど,税金を減らしていき,その分,化石燃料由来の電力ばかりを使っている住民の負担を重くしていくことが考えられます。
また,銀行であれば,環境フレンドリーであるほどローン金利を下げたり,預金金利を上げる一方で,化石燃料由来の電力ばかりを使っている顧客に対しては,その逆の措置をとることが考えられます。
さらに,LINEやFacebookなどのSNSです。楽天のIDと連携することで,SNSのプロフィールに「環境フレンドリーのレベル」を表示することが考えられます。
すると,何が起きるでしょうか?僕は,環境フレンドリーのレベルは,SNSにおけるステータスになると考えます。社会貢献を見える化するアクトコインも,より大きな社会貢献をした人を「ソーシャルアクター」として,スターに仕立てていこうとしています。
このように,「環境フレンドリーであること」の情報は,様々な場所で使うことができます。
となれば、ユーザーは環境フレンドリーであることの認証を求めるので、楽天でんきで再エネ由来の電力を買おうとします。つまり、楽天のユーザーが増えるのです。
環境フレンドリーが求められる時代に
自治体,銀行,SNSその他の団体は,環境フレンドリーなユーザーの情報を扱うことで,どのようなメリットを得られるのでしょうか?
一つは,時代の要請に応えているというステータスで,もう一つは,投資家からの評価だと考えます。
ここへきて,急に「SDGs(エス・ディー・ジーズ)」という文字をよく見かけるようになったと思いませんか?
Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)のことなのですが,国連で採択されたので,全世界的な目標になっています。
環境フレンドリーな電力を使うことも,当然にSDGsに該当するものです。
なので,環境フレンドリーなユーザーを優遇して,地球に対して貢献していくことは,SDGsの達成に寄与することなので,時代の要請に応えていることになります。
SDGsの達成に貢献する自治体に住みたいと思いますし,SDGsの達成に貢献する銀行やSNSを利用したいと思いませんか?
結果的に,住民だったりユーザーを増やすことにつながると思うのです。
また,投資家もSDGsに注目しており,事業活動に組み入れていく企業が投資家に評価される傾向があるので,企業は投資してもらいやすくなるんですよね。
このように、『環境フレンドリーなユーザー情報』を扱う側にとっても、メリットがあります。
具体的なメリットがあるからこそ、データを利用するパートナーが増えていくのです。
おわりに
大上段に構えて書き綴ったので、発散気味になってしまったことをお許しください。
ブロックチェーンは、電力に色を付けてくれます。
今回は、「環境フレンドリー」という色味をご紹介しました。
SDGsの達成が世界的な課題になっている中で、「環境フレンドリーなユーザー」が優遇されることになっていくだろうと考えています。
その結果、多くのユーザーが環境フレンドリーであろうとし、再生可能エネルギーの利用が拡大し、地球環境の改善に繋がっていくのです。
ブロックチェーンが金融経済を変えるだけでなく,地球環境の改善まで実現できる未来を楽しみにして,記事の締めくくりとさせてください。
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